20210111 根拠のない自信
俳優のムロツヨシさんは、1一浪して東京理科大の数学科に入学し、すぐ不安になった。数学は得意なつもりだったのに授業についていけない。将来やりたいこともはっきりしない。そんなときファンだった深津絵里(ふかつえり)さんの出ている芝居を見に行き、役者たちの演技に感動した。
「僕もあっちに行きたい!」と思い、夏には大学を辞めてしまったとポパイ特別編集『二十歳のとき、何をしていたか?』で語っている。本人いわく「根拠(こんきょ)のない自信」で走り出した。3年くらいの下積みのあとはテレビや映画に出て……などと皮算用(かわざんよう)しながら
しかし芽は出ず、日雇いバイトばかりの25歳のある日、涙が止まらなくなった。「根拠ない自信を使い果たしちゃったんでしょうね」。それから余計なプライドは捨て「僕を使ってください」とみっともないくらいに言って回ったという。
ある独特の存在感。それを形作るに至った(いたった)若き日である。
たしかに根拠など気にしたら、自信は持てない。だって経験がないのだから。しかしその自信はどこかで挫かれる(くじかれる)運命にある。だって根拠がないのだから。それでも何かエンジンを身に着けることで、人は前へ動き出すことができるのだろう。
きょうは成人の日。十分若くても、気持ちだけは若くもて、自分のなかのエンジンを探り(さぐり)たい。「夢」というと気恥ずかしければ「好き」「こだわり」という言葉もある。空回りもむだではない、ムロ青年にとって「根拠なき自信」の時期が必要だったように。