館長庵野秀明 特撮博物館 ミニチュアで見る昭和平成の技
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館長 庵野秀明 特撮博物館 ミニチュアで見る昭和平成の技 2012年7月10日(火)~10月8日(月・祝)
休館日:月曜日(ただし、7月16日、8月13日・20日、9月17日・24日、 10月1日・8日は開館。7月17日、9月18日は休館。)午前10時〜午後6時 (入場は閉館の30分前まで)東京都現代美術館 企画展示室1F・B2F
〒135-0022 東京都江東区三好4-1-1
TEL:03-5245-4111(代表)
【音声ガイドは必須】解説数は、常識破りのなんと70箇所!痒い所に手の届くガイドになっております。 音声ガイドのタイトルも、ズバリ「特撮博物館 大百科」!!
こんなに聞いて実りのある音声ガイドって、はじめて経験しました。すばらしい副音声コンテンツ。今後、展覧会などでは、これが常識になって欲しいというレベルです。
しかも、その音声はエヴァの冬月コウゾウでお馴染みの清川元夢さん。もうね、雰囲気たっぷりすぎる。
そして、この音声ガイドを聞くだけでも、1時間かかります(笑)。
http://www.flickr.com/photos/masakiishitani/sets/72157630669554532/
特撮博物館では、展示以外に「巨神兵東京に現わる」という約9分のショートフィルムが上映されており、それも展覧会の目玉となっています。
「企画:庵野秀明 巨神兵:宮崎駿 監督:樋口真嗣」というテロップだけで充分すぎるほどの「ドリームチーム」感と申しましょうか、「アヴェンジャーズ」感と申しましょうか、冒頭のスタジオジブリロゴと併せてワクワクしてしまうんですが、そこからの9分間はただただ「地獄絵図」。天空に現れる「巨神兵≒恐怖の塊」は「これではもう全てを諦めざるを得ないな...」というほどの圧倒的な説得力を持っておりました。今まで「腐ってやがる。早過ぎたんだ...。」状態でしか観た事の無い巨神兵の「完成体」は実に神々しいのです。
そして東京中の建物一切合切をなぎ倒す「破壊シーン」の数々は、さながら悪夢。ボクはこの「破壊シーン」を観て、あの「震災」の時に見た恐ろしい画の数々の時と同じように恐怖の声を漏らしてしまいました。震災以降に観たディザスター映画で、あの時の悲惨な映像に肉薄している映画はこれだけだと断言しても構いません。今回はCG無しというのも驚きです。ボク自身CGを否定する訳ではありませんが、この作品の特撮はCG隆盛の現在の映画に対する充分なアンチテーゼになっていると思います。もちろんその通りに作ってるんですけどね。
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東京が文字通り「火の海」になるという恐ろしい風景を余すところ無く見せつけられます。しかしこれが不思議なもんで観終わった後、感動して涙が出てしまったんですよ。日本のトップクラスのクリエイターたちが生んだこの作品は、徹底的に「破壊」を描きながら併せて高らかに「再生」を宣言しているのです。
まさに崩壊した物の美しさを見事に表現した国会議事堂。超高層ビルの内蔵されたコード類と溶けた鉄骨が飛び出した造形。そして東京タワーの残骸。
特に国会議事堂は、現在の日本人の精神の一部と、政治の崩壊感を風景として表現していて強く迫ってくる。(ここで提示された日本ミニチュア造形のひとつの到達点、非常に多くのミニチュアが漏れなく掲載されている充実した図録に、これらの作品が入っていないのは完成した時期の問題なのか、それとも意図的なのか?)
同じく国会議事堂を崩壊(溶融)させた松林宗恵監督 円谷英二特技監督『世界大戦争』(絵コンテ:小松崎茂、うしおそうじ)に近いものがあり期待感を高める。
これらを堪能して、上映会場へ入ると、舞城王太郎が書いた謎の言葉が冒頭で提示される。舞城が得意とする兄弟をその素材として描かれた言葉。東京の街の実写映像にかぶる林原めぐみによるナレーションと、空を舞う火の粉(?)の醸し出す不安感はなかなかのもの。
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宮崎駿はまだこの映画を観ていないというが、この会場のレイアウトで表現されている崩壊感と、映画の冒頭を、無意識として/意識としてどう受け止めるか興味深い。ここで『風の谷のナウシカ』において宮崎が巨神兵にこめた想いの一部は確実に具現化されていたと思うのだけれど。
その後の実際の巨神兵による迫力あるハルマゲドンの風景。
一部残念だったのは、せっかくの巨神兵の造形が充分に映像として記録されていなかったこと。事前に素晴らしい発色で公開されている竹谷隆之氏の造形美が、映画の画面では、巨神兵の黒く茶色の艶かしいボディが、何故か光で白茶けたようなハイキーな映像になっていた。そして電飾も少し安っぽい作り物感が…。これは好みの問題かもしれないが、特撮の映像は、スチル写真より本来もっとイメージ喚起力があるはずである。樋口監督による映像は、いつもながら素晴らしいレイアウトとカット割りで感嘆したのだけれど、もう一歩、巨神兵そのものの色が元々の造形に極力近いものになっていたらと思わずにはいられなかった。
そしてもうひとつは、何故か写真の書き割りの人物。本来、特撮は実在する風景に異界のものを合成する醍醐味があるはずなのに、冒頭で実写で表現した人々の住む街 東京が崩壊する前に(写真を切り抜いて立てた書き割りのペラペラな人以外いない)無人の街と化してしまっている描写はどうにもいただけなかった。本来逃げ惑う人々の動きと組合せた映像のダイナミズムがミニチュア特撮の醍醐味なのに。何故? 動かず携帯のカメラでシャカシャカ撮影を続けるのが現代の東京のリアルであるわけはないだろう。
あと期待した都市の崩壊シーン、コンクリートの高層ビル群が巨神兵のプロトン砲で裂かれて熱で溶融する『世界大戦争』のような地獄図が観られるかと期待したのだけれど、あのレベルまでは到達していなかったような…(もちろん予算や準備期間の課題は大きかったと思うけれど、純粋に映像のインパクトとして)。
ということで、火の七日間の始まりの表現として巨神兵の群れの映像には感動したのだけれど、もっと特撮映像の可能性を表現できるはずの素材だっただけに、そうした部分が残念でならなかった。(やはり庵野秀明監督によるアニメ『風の谷のナウシカ漫画版』の3部作かTVシリーズを是非とも実現して欲しいものである。もちろん絵コンテは樋口真嗣監督も加わって!)