韓寒『三重門』
韓寒『三重門』
お薦め度☆☆☆☆(最高は☆☆☆☆☆)
今週は、先週の中国語講座で取り上げた韓寒の「大ベストセラー」小説・『三重門』を取り上げます(初版は2000年)。
中国の中高生と日本の中高生の一番大きな違いは何かというと、私は、漫画があるか無いかの違いだと思っています。試験地獄、校内暴力、いじめ、性の若年化・・・大なり小なり同じ問題を抱える両国ですが、中国のほうが問題がどんどん悪化しているような気がします。
漫画について言えば、最近でこそ、中国もアニメに国を挙げて投資をしようという動きがあるようですが、台湾のように日本の漫画が簡単に読める環境には無く、日本への理解がなかなか深まらないので、日中間の交流の上では大変残念なのですが、中国では漫画の代替物として、金庸や古龍に代表される「武侠小説」のほかに、「言情小説」というジャンルが存在し、主にネット上で広く青少年に読まれています。誤解を恐れず言えば、「幼稚な恋の学園物語り」といったところでしょうか。
今回ご紹介する韓寒の小説の読者層は、漫画の無い中国の中高生中心(甘いルックスも人気のひとつで、女性であれば20歳前後までは読んでいるかもしれません・・・)で、薄っぺらな「言情小説」にはあきたらない一群(成績で言えば中の上以上か大都市の重点中学レベル)ではないかと思います。ですから、私が飛行機の中でこの本を読んでいると、男性の同僚(中国人)は「なんでそんな本をよんでるんですか?」と不思議そうな顔をし、女性の同僚(同じく中国人)は、くすくす笑う、というそんな作家です。
でも、面白かったです。中国の中学生や高校生の生活が良くわかりました。相当、陰湿ですね。密告だとか自己中心、成績重視、お金とコネの世界・・・・というのは、中国の大人社会の縮図でもあります。そんな学園生活を、韓寒はユーモアとちょっとした教養を交えて軽妙に語ります。結構、笑えますよ。
簡単に粗筋を紹介しましょう。
主人公の林雨翔は、中学校3年生。幼いときに出版社に勤める父に強要されて古文を暗誦させらるが、中学生となった今、その記憶は薄れ、成績は今ひとつ。文学クラブで文章を書いている。母親は、家庭をほっぽり出して、連夜、マージャンをして朝帰りという典型的な上海の家庭である。
ある週末、林雨翔は文学クラブの旅行で上海郊外の周庄に遊びに行く。そこで、彼は同じ学校の成績トップにして自他共に認める美貌の持ち主・Susanに出会い、一目ぼれする(このあたり、中国語の読めるかたは、先週の中国語講座を参照ください)。古文の知識を披露して、Susanの注目を集めようとした林だったが、古文の能力はSusanの方が一枚も二枚も上。大恥を書いてしまうが、挫折することなく、早速、ラブレターを書く林。しかし、Susanからは「3年後に清華大学で会いましょう」との返事。
高校入試の準備にも熱が入らない林雨翔だったが、文学クラブから参加した全国作文コンクールで、林雨翔が全国ナンバーワンとなる。自分でも驚く林雨翔、これでSusanが自分のことを認めてくれないかと期待するが、同じ文学クラブでSusanの親友である沈渓儿は、意地悪をしてSusanに知らせてくれない。
高校受験を間近に控え、クラス旅行で南京へ行く前日、偶然、スーパーで買い物をするSusanと沈渓儿と一緒になった林雨翔は、晩御飯を一緒に食べ、ビールを飲んで醜態をさらす。しかし、そんなへまばかりする林雨翔を、Susanも憎からず思い始めていた。
南京へのバス旅行。首尾よく、Susanの隣の席を確保した林雨翔は、一晩中、Susanと話をする。そして、上海に戻った後、Susanから電話があり、出かけていくと、Susanは林雨翔に自分の使った参考書に重点復習箇所をしるしでつけたものを手渡す。これで、しっかり勉強して一緒の高校(上海市の重点高校)に行きましょうとのこと。林雨翔は感激して受験勉強に打ち込もうとするが三日坊主に終わってしまう。
そして、高校受験。林雨翔は、市の重点高校には点数が及ばず、県レベルの重点高校に合格する(中国では市のほうが県よりも大きい)。しかし、母親のマージャン仲間のコネで、林雨翔は「体育が優秀」という一筆をもらい、市の重点高校の体育学科にもぐりこむことに成功したのだ。これでSusanと一緒の高校に行けると喜んだ林雨翔だったが、なんとSusanは市レベルの重点高校には3点足らず、県の重点高校に行くことになったという。林雨翔は、後悔するが、どうしようもない。
高校生活が始まる。なんとなくSusanに連絡する機会を失ってしまった林雨翔。「裏口入学」生として馬鹿にされる寄宿生活は友人たちともそりが合わず、成績は赤点ばかりで悶々とした日々を送る。そして、Susanが新しい高校で理系のエリート学生と熱愛に落ちたとの噂を耳にする。失意のうちに、夜中をさまよう林雨翔は、無断外出として友人から密告され、他の事件も絡んで大問題に発展する。
退学処分もありえる中、Susanから電話が入る。理系学生との恋もうそ、最終目標は清華大学だから高校はどこでもよかった、Susanが県の重点高校に入ったのは、林雨翔と一緒の高校に行きたくてわざと入試で失敗した、と聞かされ大ショック。そばで電話を聞いていた友人(密告者)は、わざと電話の向こうにも聞こえるように「無断外泊(逃夜)なんかするから処分されるんだ!」と言い、これを聞いたSusanは激怒して電話を切ってしまう。
ああ、どうしよう、退学になるかもしれないし、大切なガールフレンドも失ってしまいそう・・・・というところで小説は終わります。
恐らく著者自身の経験も交えたストーリー展開で、「林雨翔」という「成績は今ひとつだけれど一芸に秀でている」という学生に対して、今の中国の中高生は自分を投射して思いっきり感情移入できるのだと思います。
小説として、大変面白いです。特に、飛行機の中で暇なときに読むのが良いと思います。そういうわけで、この小説には☆☆☆☆をつけました。
なお、題名の「三重門」ですが、本文中に「王天下有三重焉,三重,谓议礼、制度、考文也」という中庸からの出典であることが記されています。因みに、「王」は去声(第4声)の発音で「統一する」の意味です。こういうちょっとした教養をさらけ出すところが、恐らく「中の上」クラスの中高生の支持を集めている一因ではないかと想像します。
お薦め度☆☆☆☆(最高は☆☆☆☆☆)
今週は、先週の中国語講座で取り上げた韓寒の「大ベストセラー」小説・『三重門』を取り上げます(初版は2000年)。
中国の中高生と日本の中高生の一番大きな違いは何かというと、私は、漫画があるか無いかの違いだと思っています。試験地獄、校内暴力、いじめ、性の若年化・・・大なり小なり同じ問題を抱える両国ですが、中国のほうが問題がどんどん悪化しているような気がします。
漫画について言えば、最近でこそ、中国もアニメに国を挙げて投資をしようという動きがあるようですが、台湾のように日本の漫画が簡単に読める環境には無く、日本への理解がなかなか深まらないので、日中間の交流の上では大変残念なのですが、中国では漫画の代替物として、金庸や古龍に代表される「武侠小説」のほかに、「言情小説」というジャンルが存在し、主にネット上で広く青少年に読まれています。誤解を恐れず言えば、「幼稚な恋の学園物語り」といったところでしょうか。
今回ご紹介する韓寒の小説の読者層は、漫画の無い中国の中高生中心(甘いルックスも人気のひとつで、女性であれば20歳前後までは読んでいるかもしれません・・・)で、薄っぺらな「言情小説」にはあきたらない一群(成績で言えば中の上以上か大都市の重点中学レベル)ではないかと思います。ですから、私が飛行機の中でこの本を読んでいると、男性の同僚(中国人)は「なんでそんな本をよんでるんですか?」と不思議そうな顔をし、女性の同僚(同じく中国人)は、くすくす笑う、というそんな作家です。
でも、面白かったです。中国の中学生や高校生の生活が良くわかりました。相当、陰湿ですね。密告だとか自己中心、成績重視、お金とコネの世界・・・・というのは、中国の大人社会の縮図でもあります。そんな学園生活を、韓寒はユーモアとちょっとした教養を交えて軽妙に語ります。結構、笑えますよ。
簡単に粗筋を紹介しましょう。
主人公の林雨翔は、中学校3年生。幼いときに出版社に勤める父に強要されて古文を暗誦させらるが、中学生となった今、その記憶は薄れ、成績は今ひとつ。文学クラブで文章を書いている。母親は、家庭をほっぽり出して、連夜、マージャンをして朝帰りという典型的な上海の家庭である。
ある週末、林雨翔は文学クラブの旅行で上海郊外の周庄に遊びに行く。そこで、彼は同じ学校の成績トップにして自他共に認める美貌の持ち主・Susanに出会い、一目ぼれする(このあたり、中国語の読めるかたは、先週の中国語講座を参照ください)。古文の知識を披露して、Susanの注目を集めようとした林だったが、古文の能力はSusanの方が一枚も二枚も上。大恥を書いてしまうが、挫折することなく、早速、ラブレターを書く林。しかし、Susanからは「3年後に清華大学で会いましょう」との返事。
高校入試の準備にも熱が入らない林雨翔だったが、文学クラブから参加した全国作文コンクールで、林雨翔が全国ナンバーワンとなる。自分でも驚く林雨翔、これでSusanが自分のことを認めてくれないかと期待するが、同じ文学クラブでSusanの親友である沈渓儿は、意地悪をしてSusanに知らせてくれない。
高校受験を間近に控え、クラス旅行で南京へ行く前日、偶然、スーパーで買い物をするSusanと沈渓儿と一緒になった林雨翔は、晩御飯を一緒に食べ、ビールを飲んで醜態をさらす。しかし、そんなへまばかりする林雨翔を、Susanも憎からず思い始めていた。
南京へのバス旅行。首尾よく、Susanの隣の席を確保した林雨翔は、一晩中、Susanと話をする。そして、上海に戻った後、Susanから電話があり、出かけていくと、Susanは林雨翔に自分の使った参考書に重点復習箇所をしるしでつけたものを手渡す。これで、しっかり勉強して一緒の高校(上海市の重点高校)に行きましょうとのこと。林雨翔は感激して受験勉強に打ち込もうとするが三日坊主に終わってしまう。
そして、高校受験。林雨翔は、市の重点高校には点数が及ばず、県レベルの重点高校に合格する(中国では市のほうが県よりも大きい)。しかし、母親のマージャン仲間のコネで、林雨翔は「体育が優秀」という一筆をもらい、市の重点高校の体育学科にもぐりこむことに成功したのだ。これでSusanと一緒の高校に行けると喜んだ林雨翔だったが、なんとSusanは市レベルの重点高校には3点足らず、県の重点高校に行くことになったという。林雨翔は、後悔するが、どうしようもない。
高校生活が始まる。なんとなくSusanに連絡する機会を失ってしまった林雨翔。「裏口入学」生として馬鹿にされる寄宿生活は友人たちともそりが合わず、成績は赤点ばかりで悶々とした日々を送る。そして、Susanが新しい高校で理系のエリート学生と熱愛に落ちたとの噂を耳にする。失意のうちに、夜中をさまよう林雨翔は、無断外出として友人から密告され、他の事件も絡んで大問題に発展する。
退学処分もありえる中、Susanから電話が入る。理系学生との恋もうそ、最終目標は清華大学だから高校はどこでもよかった、Susanが県の重点高校に入ったのは、林雨翔と一緒の高校に行きたくてわざと入試で失敗した、と聞かされ大ショック。そばで電話を聞いていた友人(密告者)は、わざと電話の向こうにも聞こえるように「無断外泊(逃夜)なんかするから処分されるんだ!」と言い、これを聞いたSusanは激怒して電話を切ってしまう。
ああ、どうしよう、退学になるかもしれないし、大切なガールフレンドも失ってしまいそう・・・・というところで小説は終わります。
恐らく著者自身の経験も交えたストーリー展開で、「林雨翔」という「成績は今ひとつだけれど一芸に秀でている」という学生に対して、今の中国の中高生は自分を投射して思いっきり感情移入できるのだと思います。
小説として、大変面白いです。特に、飛行機の中で暇なときに読むのが良いと思います。そういうわけで、この小説には☆☆☆☆をつけました。
なお、題名の「三重門」ですが、本文中に「王天下有三重焉,三重,谓议礼、制度、考文也」という中庸からの出典であることが記されています。因みに、「王」は去声(第4声)の発音で「統一する」の意味です。こういうちょっとした教養をさらけ出すところが、恐らく「中の上」クラスの中高生の支持を集めている一因ではないかと想像します。