うみねこのなく頃に EP8真相考察
EP8 Twilight of the golden witch
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いよいよEP8を迎える事になったが、EP8は縁寿のために開かれたゲームであり、戦人は縁寿に未来を生きるための力を伝えようとしていた。一方の縁寿は六軒島で起こった事件の真実を求めていた。六軒島の事件の真実はEP7で語られたあの内容そのものであり、EP7の時もそれは説明した。EP8にそれを裏付ける伏線がいくつか出ているので抜粋する。
「一なる真実の書は確かにこの島で何があったのかを縁寿に教えるだろう。しかし、それを知って何の意味がある?! 12年前の悲しみが増すばかりじゃねえか! いったい縁寿はさらに何年かければ1人の女の子としての幸せを享受できるってんだよ! いったい何年をかければその傷口は癒されるんだよ!」
そして、縁寿が実際に「一なる真実の書」を見た後に絵羽に対する心象を全く正反対に変えていて「絵羽は私の一番の味方だった」と語っている。六軒島の真実はEP7の内容の通りであり、絵羽は縁寿に両親が殺人犯だった事を隠していたのだと読み取れる。
この戦人と縁寿の対立の構造として本編中に分かりやすい説明部分があるので、そこを抜粋する。
「かつてのベアトのゲームが戦人に魔女の存在を信じさせようとする事が目的だったように、戦人のゲームは縁寿に真実より大切な何かを伝える事を目的とする。ゲームはいつだってその結果を強制しない。ベアトだって戦人が自ら認めない限り、永遠に勝つ事は出来ないゲームだった。戦人のゲームも同じ。縁寿が自ら認めない限り戦人の勝つ事はできないゲームなのだ。だから、戦人はかつてのベアトのようにゲームを進める。信じるかどうか。納得するかどうかは全て対戦相手が決める。そのために戦人は自分の幻想で縁寿を包み込もうとしている。」
かつてのベアトのゲームは彼女の目的が別にあったとはいえ、魔女を認めさせる事も大事だった。それは事件をEP7のような事件ではなく「魔女の犯行」と信じさせる事で、戦人が傷つかないようにしていたからだ。でもそれは戦人が自分で魔女を認めないと成立しない。今回の縁寿のゲームも同じ事であり、戦人は縁寿が「六軒島の黄金をめぐる殺し合い」という真相で傷ついてほしくなかった。幼少期の彼女がもう覚えてはいないだろう右代宮家のあたたかな空気を感じてもらう事と、真里亞の教えた白い魔法で、縁寿が幸せを自分で見つけてくれるような未来を送ってほしいと願っていた。それがEP8のゲーム盤の意味合いだ。
・なぜ真実を知る事が駄目なのか
EP8の真相を求める縁寿は実際には98年の世界で得られもしない真実を求め、絵羽を犯人と決め付け、絵羽に復讐するためだけに生きている。彼女の中で「絵羽が犯人」と真相は決まっていて、それに都合のよい真実を求めてるだけなのだ。本編中から天草の語る重要なセリフを抜粋する。
「真実を暴く事に疲れ果て、お嬢はやがて右代宮絵羽を憎むだけの人生に成り果てていく」
「お嬢の旅は最初真実を知る旅でした。それが段々復讐の旅になっている。」
結局縁寿が真実を知ったところで、彼女にとってその真実は受け入れられる物ではなく、ただ彼女を傷つけるだけの物でしかないのだ。縁寿が一なる真実の書を読み、自殺する描写のあと戦人達と合流するが、ここで戦人が「真実なんてたいしたもんじゃなかっただろ」と言っている。これは、縁寿にとって受け入れられる都合のいい真実ではなく、絵羽が犯人ではないと知り、自分の未来のために何の価値もない真実だったという意味だ。「真相がたいしたもんじゃない」という意味ではなく、「縁寿にとって価値のある真実ではなかった」という事だ。当然だろう。両親が殺人犯だったなんて真相を縁寿が受け入れる訳が無い。それがたとえ真実だったとしても。
・譲治と朱志香の出題
クイズ大会で譲治と朱志香が伝えようとしている事は非常に重要だ。縁寿は今までの人生の中で様々な情報を自分で選び取って生きてきているはずだ。その中には縁寿を幸せにしてくれる情報、縁寿を不幸にするだけの情報、両方あるだろう。今までの縁寿は世間の六軒島の事件の真相を巡る熱狂の中から、絵羽の陰謀説、留弗夫と霧江犯人説など、縁寿を不幸にする情報ばかり選んで育ってきてしまった。でもそれは間違いなのだ。譲治と朱志香が伝えたかった事。六軒島の事件の真相なんて縁寿のいる世界では明らかにはならないのだ。猫箱に真相が閉じ込められた以上、未来の縁寿にはその真相を知る手段はない。だから、縁寿は自分を幸せにしてくれる情報だけを選び取って、それを大切にして未来を生きる事が大事なのだ。譲治と朱志香は縁寿が幸せな未来を送る事が出来るように、それを伝えたかったのだろう。そして、この偽書そのものを読んでいる「現実の縁寿」は、十八のこのメッセージをきっと受け取ってくれたはずだ。
・最後の選択
最後に縁寿は魔法か手品のどちらかの選択を迫られる。縁寿が見たベアトの行為は明らかに手品にしか見えなかっただろう。縁寿は兄が紡いでくれたこの最後のゲーム盤で何を受け取ったのか。確かに縁寿は一なる真実の書を読み、真相を知ってしまったかもしれない。しかし、縁寿は真実を知ってもそれを拒否する事ができるのだ。あんなのは真実じゃないと。どんな真実も結局は本人がそれを受け入れないと真実にはならない。そして、縁寿は兄から右代宮一族の温かな気持ちや思い出を受け取った。自分の未来のために本当に大切なのは何なのか。手品という名の現実なのか。それとも、縁寿を幸せにしてくれる可能性を持った魔法なのか。真実を知る事は現実を突きつけられる事と同じだ。六軒島の真実は黄金を巡る殺し合いであり、縁寿を不幸にするだけの辛い真実だった。でも、それを縁寿が真実だと認める必要なんかないのだ。真実は縁寿が自分で決める。自分が未来を生きていくために、本当に大切な事は何なのか。それが本当に理解できたのなら、縁寿が選ぶべき選択はもう明らかだろう。
・一なる真実の書
この本は幻想世界と現実世界の両方に出てくるが、EP8の作家になった縁寿がこの時の日記披露パーティーの様子を回想しているため、これは現実でも実際に存在してて、幾子が突然公開中止をしたエピソードも本当の出来事だろう。絵羽はEP8で語られた通り、真相を日記に書きとめており、右代宮蔵書の流出と共に幾子の元へ渡ったのかもしれない。
・ベアトリーチェ
EP8で登場するベアトリーチェはEP6の時のような雛ベアトのような口調を一切出さない。これはEP5で死んだベアトがまるで生き返ったように見える。この部分は現実世界で偽書を書いている八城十八の気持ちが大きく反映されてる物と思われる。EP5でベアトが死亡し、EP6で新たなベアトが復活し結婚するというのは、十八が真相に至るのがあまりに遅かった後悔と、ヤスに自分の気持ちを伝えるためのエピソードとして書いた物であり、EP5とEP6は彼の心のけじめなのだ。なのでEP8の時点で十八の中では六軒島に関する問題は全て整理できていて、問題は縁寿だけに絞られている。そういう意味合いなので、EP8のベアトはEP1~5に登場していたかつてのベアトと同一と言っても何の差しさわりもないと思われる。幻想世界ではEP5で死亡し「あのベアトは二度と生き返らない」と宣言されているが、現実世界部分の事を考えるとこれは矛盾しないように思える。もちろんあれが雛ベアトだと解釈するのも間違いではない。要するに過去のベアトと雛ベアトの違いに意味なんてないのだ。
【ベルンの赤字】
「ベアトリーチェは、1986年10月に、死亡した。よって、彼女が生み出した黄金郷は、完全に滅び去った。黄金郷に生かされていた、お前の親族たちも全員、滅び去った。お前の父も、母も、そしてもちろん戦人も、二度とお前のところに戻り、お前の名を呼ぶことはない。」
ベアトリーチェはEP8の最後に語られたように、間違いなく死んだ。ボートから飛び降り自殺したのは真実の描写だ。ここで「なぜベアトリーチェは自殺したのか」を考察しよう。
EP7のヤスの動機、計画考察を思い出してほしいのだが、実際の六軒島でEP7のような一族による殺し合いが発生した結果、とんでもないイレギュラーが発生してしまったのだ。碑文が解かれる事によって「紗音人格と譲治の恋が成立」というのは前に説明した通りだが、一族の殺し合いに巻き込まれ、紗音の思い人である譲治が殺されてしまったのだ。つまり、碑文が解かれたにも関わらず、紗音と譲治が結ばれる事が不可能になってしまった。その後戦人とベアトは潜水艦基地の方へ逃げたようだが、戦人と結ばれるためにはルーレットの結果が出ないといけない。つまり、戦人が事件を解決し、真相に至るというルーレットの目が出ないといけないのだ。EP7の通りヤスは2つの人格の恋に決着をつけるために自身のルールを絶対に守ると言っている。なので、事件の真相に至っていない戦人とベアトが結ばれるというのは、紗音人格に対する重大な裏切り行為なのだ。「譲治と結ばれる」「戦人と結ばれる」これが不可能になり、「爆弾によって全員皆殺し」もあの時の状況では出来るわけがない。
つまりあの時の彼女は想定していた全ての選択肢が消えてしまった状態なのだ。最悪の目と想定していた爆弾による心中すらも不可能だったのだ。あの時彼女がどれだけ絶望を感じただろう。ルーレットですら運命を決める事が出来ず、初めて出来た選択が絶望による「自殺」だったのだ……
戦人の死亡宣言はこのベアトの自殺時に、助けるために海に飛び込んだものの助けられず、記憶と人格を失ってしまった事を指しているものと思われる。EP8で黄金郷が消滅しているが、もちろん「爆弾によって皆殺し」が成立しなかったために、黄金郷が成立しなかった事の比喩だろう。黄金郷の思想である「死んであの世で思い人と結ばれる」というのは一つ欠点がある。それは思い人が生きている場合成立しないという事だ。それはそうだろう。ベアトが死んで黄金郷に行ったところで、戦人が現実世界で生きてるのでは成立しない。この赤字はその部分も総合的に含めた赤字だろう。
・入水自殺とベアトリーチェの幸せ
ヤスの自殺部分については自身のルールを順守した上で、彼女が自殺という最終的な選択を行ったし、絶望ももちろんあるだろう。しかし、戦人が「島を一緒に出よう」と言ってくれた事によってベアト人格の思いの一部は少なからず叶えられたはずだ。戦人からすれば目の前でヤスが自殺を行った事は深い衝撃と悲しみや後悔を生んだに違いないが、ヤスのベアト人格は満足して死んでいった一面もあると思う。一緒に島を出ようと戦人が言ってくれた事でヤスは一つのゴールにたどり着いたに違いない。ただ、それを見ていた戦人が理解できたのかは分からない。
・フェザリーヌとラムダの戦い
あのフェザリーヌが物語を「ラムダが死ぬ」というように書き換えて戦ってる描写は、このうみねこの世界が偽書の世界であるという真相の比喩だと思われる。物語を紡いでいる幾子と十八の事を暗示する部分だ。
・なぜ戦人達とエリカが戦っているのか
この部分は現実世界の部分の反映だろう。真相に至った十八は縁寿を守るため、そしてヤスへの思いも守り、六軒島の事件の真相を知られたくないと思うようになった。しかし、世間では六軒島の事件は大ブームになっていて、偽書もどんどんネットで生み出され、様々な悪意のある物語が生み出されていった。この十八と現実世界部分の対立がEP8の幻想世界のバトルとして反映されている。あれはプレイヤーに対する批判ではないので、そこを勘違いしないようにしよう。
・階層構造の仕組みによる読者への誤解
うみねこの世界は大きく分ければ2つの世界によって構成されている。ヤスと十八の描く偽書世界と、その読み物としての偽書が実際に存在している現実世界だ。この偽書世界というのは本来、うみねこの世界の現実世界の人々に向けて発信されているメッセージであり、EP8の読者への攻撃性も、当然うみねこの世界の現実世界の人々へ「六軒島の事件を猫箱へ閉ざす」という目的のために発信されている。ここでポイントなのは、本来1ページ目へ
うみねこの中の現実世界の人々へ向けられた物語を、私達プレイヤーが一階層飛び越えて直接読んでしまっているため、作中のメッセージ性を「私達プレイヤーに向けられたメッセージ」と勘違いする例が顕著に出てしまった。それがEP8発売後に「自分が批判された」と誤解してしまったユーザーによる作品批判へと繋がってしまったのだ。それは誤解なのだという事をここで再度言っておきたい。
・手品ED
縁寿の登場する98年世界でEP4、EP6、EP8の手品EDの部分は全て偽書の世界であり、現実の98年の描写ではない。幻想世界のクイズ大会の景品を手品EDで持ってる部分なんか分かりやすいだろう。実際の縁寿のいる現実の98年世界は作家になった縁寿が描かれている部分のみだ。
・縁寿はどうやって作家になったのか
以上のような98年世界の考察を踏まえると、「どうやって作家になった縁寿は、一族や家族が死んだ過去を乗り越えたのか?」という疑問が残る。それに対する伏線部分が十八と縁寿の再会部分にあるので抜粋する。
「しかし、私は兄からのメッセージをちゃんと受け取れていたはずだ。それは伊藤幾九郎の事。私は真実に至ったと自称する偽書作家、伊藤幾九郎の正体が八城十八だと気付いた~」
つまり、縁寿は98年世界で八城十八がネットに流していた偽書をずっと読んでいたのだ。EP8は特に縁寿に向けられた物語であり、EP4は真里亞の魔法を理解するには大事なエピソードだっただろう。彼女は偽書を読む事で、十八のメッセージを受け止めたのだ。
・なぜうみねこは真相が本編中で明かされないのか
最後の結びの一文からも分かるように、うみねこのEP1~8は全て98年世界に存在している。人の目に触れている物語のため、これに真相を書いてしまうと、うみねこの世界の98年世界の人々も同時に真相を知ってしまうという事になり、縁寿が幸せに生きる事ができる世界が無くなってしまう。そのため、このような構成になったのだと思われる。さらに言うならば、この偽書の作者として名乗り出たのが幾子であるため、うみねこの現実世界の人々にとってはただの創作物でしかない。十八という事件関係者が実際は偽書作成に関わっていると知らない限り、偽書内に何を描こうがそれは創作としか受け止められないだろう。たとえ、真実が描写されたとしても。
・八城十八が偽書を書き始めた理由
まず一つに作家になった縁寿と再会したシーンでの会話から分かるように、十八は記憶障害を持っている。それがキッカケで自殺未遂をした経験もあり、戦人の記憶との葛藤はとても大変な物だったのだろう。戦人の記憶に整理を付けるためという理由も少なからずあるだろう。
二つ目に、EP5でも触れたヤスの真相に至るのが遅かったという部分もある。メッセージボトルを読んで真相に至った十八は激しく後悔しただろう。戦人の記憶が自分の物と思えない記憶障害の部分と、戦人のこの真相に至るのが遅かったという後悔の部分との狭間で、十八の精神状態は極限まで混乱してたと推測できる。戦人のこの後悔の気持ちを十八は物語として決着をつけてあげなくてはいけないと思ったはずだ。EP6の物語がその決着のつけかたの答えであり、ヤスへの気持ちを綴った物語でもある。
三つ目に縁寿の事だ。十八は戦人の記憶が自分を全て塗り替えて、別人にしてしまう事を恐れていたと告白している。縁寿に会うという事はそれを加速させてしまう危険性があり、縁寿に会う事は精神的抵抗がかなり大きかっただろう。しかし、六軒島の事件以来縁寿が一人で寂しく孤独に暮らしている事実に目を背け続けるのも苦しい。そこで十八はせめて偽書を通して縁寿にメッセージを送ろうと思ったのだろう。EP4やEP8の物語は現実の縁寿にかなり大きな影響を与えたはずだ。それはもう人生観が変わるほどに。
最後に魔女幻想を世間に広めるためという理由だ。EP6の「赤字」という項目で語ったが、幾子は偽書を作成する時に真実だと保証したものを赤字で記している。物語で赤字が登場するのはメタ世界なので、98年の世界でネットで公表されている偽書には私達が見たのと同じメタ世界の攻防が描かれている。つまり、98年世界の人々にあの魔女と戦人の攻防を見せる事がひとつの目的でもある訳だ。記憶を失った十八がメッセージボトルを読んで真相に至った時に、十八は実際の六軒島で起こった出来事はもちろん、ヤスがやろうとしていた事や動機部分まで全て知ってしまった。真相に至った十八はヤスのあまりに悲しい結末と、一族による黄金を巡る殺し合いという真相を世間に知られたくないと思うようになった。これは縁寿が希望を持って生きていける世界を守るためにも必要だ。そうした理由から、十八は「六軒島の事件は魔女による犯行だった」という黄金の真実で98年世界の人々を真相から遠ざけようとしたのだろう。本編中で語られているように六軒島の事件は最初絵羽の遺産を巡る陰謀説が主流で、魔女がどうのこうのという説は後から急に広がり始めた説だ。思惑通り世間の六軒島の事件への印象は真相とは程遠い「魔女による犯行」という印象で塗りつぶされていった。この黄金の真実で十八は六軒島の悲しい事件全てを覆い隠したのだ。縁寿のため、死んだ一族のため、そしてヤスのために。
・福音の家の魔法EDの意味
あのEDの意味はまず一つはベアトの語る黄金郷の復活という部分にある。前にも語った通り、黄金郷は思い人が死んでいないと成立しない。縁寿が「十八先生も兄の記憶の重責から解放されてもいいと思います」と言ってるように、あの時やっと十八の中から戦人の人格が完全に死んだのだ。死んで戦人は黄金郷にやっとたどりついた。ベアトも自分の思い人がやっと来てくれた事を喜んでいるのが伝わってくる。
もうひとつの意味は、記憶を無くした十八がメッセージボトルを読む事でヤスの気持ちを知り、真相に至る事があまりに遅かった自分の事を後悔し、そのけじめのためにずっと紡いできた物語を、やっとあの瞬間ヤスに伝えられた事を意味している。最後の結びの一文「この物語を最愛の魔女ベアトリーチェに捧ぐ」からもその気持ちが伝わってくるだろう。
・縁寿の反魂の魔法
十八と幾子が福音の家を訪れた時、そこには六軒島のお屋敷のホールが再現されていた。施設の子供がハロウィンパーティーを催しており、とても幸せな空気が充満していた。十八の偽書を読み、自分にとっての真実を大切にしようと思ったであろう縁寿は、六軒島の真実をEP7お茶会のようなものではなく、EP8の前半のような幸せな真相の解釈だったと信じ、あのホールを再現したのだろう。縁寿にとっての肖像画のベアトリーチェは白い魔法を教えてくれる魔女として解釈されてるのかもしれない。その縁寿の想いが詰まったあのホールを十八が訪れた時、十八は昔の温かな右代宮家の雰囲気をきっと思い出しただろう。十八は縁寿に魔法という考え方を偽書を通して教え、縁寿の幸せを願った。それは「魔法を他人にかける」という事だが、本当の意味で何よりも難しいのは、魔法を自分自身にかける事だ。十八にとって六軒島の真実は確定したただの真実であり、違う解釈の余地が存在しない。それに加え、ヤスとの約束の一件もあり、十八の精神状態は縁寿に会った時も不安定のままだった。兄から魔法をかけてもらった縁寿は、十八に会った後、その兄の葛藤や苦悩を察したのだろう。縁寿の愛がつまった福音の家のホールは、昔の温かな右代宮家の雰囲気が充満していた。これこそが、縁寿が兄にかけてあげる反魂の魔法なのだ。
・魔法EDの黄金郷に18歳の縁寿がいる理由
一見するとスルーしがちなこの部分は実はかなり重要だ。なぜ死後の世界である黄金郷に18歳の縁寿がいるのか。それは、この縁寿が偽書の物語のあの縁寿だからである。縁寿はEP4のエンドロールで1998年に死亡と書かれている。現実の縁寿はもちろん作家になった縁寿だけなのだが、偽書の中で家族の帰りを望んでいたあの縁寿にも黄金郷で家族と再会というハッピーエンドが用意されていた訳だ。実に感動的なシーンだ。
・黄金郷の扉
EP8で黄金郷の扉は、外から2人で閉じないといけないという情報が出た。魔法EDの最後の黄金郷は扉が閉まってエンドロールに入るが、あれは恐らく真相を猫箱に閉じた十八と幾子が、黄金郷の扉を外から閉じてくれたのだろう。
・ベルンカステルとラムダデルタ
ここまでのうみねこの考察で偽書世界と現実世界の関係性を重点に考えてきたが、最後に偽書世界的な魔法解釈の話をしようと思う。ベルンカステルは幾子の猫がモデルなんだろうなとEP8の描写から分かるが、ラムダデルタは一体何がモデルになっているのか。推測だが、ヤスが事件を起こそうとした時の「絶対に成功させる」という絶対の意思がモデルなんじゃないだろうか。ラムダはヤスの人間の頃のみすぼらしい姿を知っていたし、彼女の後見人でもあり、なおかつ、ゲームマスターをEP5で務めるほどの最初からあらゆる真相に至っている魔女でもある。ヤスの絶対の意思がモデルとなった魔女なのだとすると、なぜ彼女がヤスの事にあんなに詳しいのかや、真相に至ってる理由、ゲームマスターを務められた理由も納得できる。
絶対の意思を持ったヤスにラムダデルタは、ルーレットの目のひとつを叶えてあげる事にした。しかし、それは苦難の道のりだったのは言うまでもない。ラムダデルタが安易に幸せをほいほいと与えてくれるような魔女ではないのは本編からも分かる。事件は想定していなかったイレギュラーによって失敗し、ヤスは自殺をする。それを見ていた戦人の深い後悔と謝罪の物語であるEP2~8を経て、やっとEP8の魔法EDにて全員が黄金郷でハッピーエンドを迎える。本来ヤスが現実世界で叶えたかったのは紗音かベアトのどちらかの人格の幸せであっただろう。しかし、ラムダデルタは苦難の道のりの末に全人格の幸せを叶えてあげたのだ。そんな願いの叶え方をするのが実にラムダデルタらしい(笑)そしてベルンカステルの「奇跡」もうみねこの物語の中では重要な奇跡を叶えてくれている。うみねこの現実世界の物語で明らかに奇跡としか言いようの無い部分が一ヶ所ある。それはワインボトルのノート片が十八まで届き、十八が真相に至った事だ。EP7の理御の話の部分で、ベルンカステルは奇跡的な確率で夏妃に拒絶されずに育った理御が、結局は86年の親族会議の日に殺される運命であると告げている。EP7から抜粋する次の部分を見てほしい。
「257万8917分の257万8916の確率で。あなたはクレルとしての世界に生き、逃れ得ぬ運命に翻弄され、気の毒な最期を遂げる。そして、257万8917分の1の確率で右代宮理御として生き。今夜、霧江に殺されるの。…………つまりあなたの、いいえ、あなたたちの運命は、257万8917分の257万8917の確率で、…………つまり如何なる奇跡も許されない絶対の運命で、逃れ得ぬ袋小路に、運命の牢獄に囚われてるということなのよ!」
「決して出られぬ牢獄の鉄格子の先に見えるわずかな空に、ベアトリーチェという魔女は、幸せになれたかもしれない世界を夢想した…。しかし、その鉄格子の先の空は、…………またしても、牢獄の中だったのだ……。」
どんなに探しても理御が助かるカケラは存在しなかったのだろう。それを考えるとヤスが事件を起こした時に、一族が殺し合いをしないカケラというのも存在しなかったのではないだろうか。ベルンカステルは奇跡を司る魔女だ。1%でも可能性があればそれを奇跡に昇華できる。しかし、ヤスの計画にそのカケラはなかったのだろう。だから、ベルンカステルはメッセージボトルが誰かに拾われ、最終的に十八が読み真相に至るという奇跡を叶えた。ベルンカステルが常に人間側に立ち魔女幻想を打ち破ろうとしていたのは、このメッセージボトルが十八まで届くという奇跡を叶えたからではないだろうか。メッセージボトルはヤスが戦人に真相に至ってほしいと願って海に投じた物だ。だから、ベルンカステルはその思いをないがしろにする事は出来なかったのだろう。
この2人の魔女の「絶対」と「奇跡」によって、最終的にEP8の魔法2ページ目へ
EDのような結末が実現した。それがうみねこのなく頃にという作品の魔法解釈としての物語なのではないだろうか。そんな視点であの魔法EDを見るのも面白い。
【うみねこのタイムライン】
・金蔵が戦時中六軒島でイタリア人のベアトリーチェと出会う。黄金をめぐる殺し合いが発生し金蔵とベアトリーチェだけ生き残る。
・イタリア人のベアトリーチェを愛人として迎え入れ、金蔵とベアトリーチェとの間に子供が出来る。ベアトリーチェは子供を産んだ際に死亡。
・金蔵が六軒島に屋敷の本館とは別に九羽鳥庵を建て、そこでベアトリーチェとの子供を育てる。
・金蔵は子供である九羽鳥庵ベアトを死んだイタリア人のベアトの生まれ変わりだと信じ、子供を作ってしまう。
・その子供を福音の家からの子供という名目で夏妃に預ける。しかし、夏妃は事故か故意か使用人と一緒に崖から突き落としてしまう。使用人は死亡。子供は南條先生の手当てのおかげで一命を取り留める。
・九羽鳥庵ベアトの元に楼座が迷い込み、彼女を外に連れ出した結果、海岸で崖から落ちて死亡させてしまう。
・九羽鳥庵ベアトの娘ヤスは、幼少期を福音の家で過ごす。
・源次によって右代宮家の使用人として連れてこられたヤスは、使用人生活を続けつつ学校にも行くようになる。
・ヤスが親族会議の度に会うイトコ達と仲が良くなり、戦人に恋をする。
・その後戦人との約束の件で心を痛め、恋の芽を自分の別の人格に預け、新しい恋を探す事に。
・ヤスが碑文を解き、黄金を発見。黄金と爆薬、そしてベアトリーチェの称号を手にする。
・ヤスは譲治と新しい恋をし、順調に交際を進める。
・86年に戦人が帰って来る事によって2つの人格が譲治と戦人に別々に恋をしてる状態になる。
・ヤスは事件を通して自身の恋に決着をつけるべく事件を起こす。
・事件前日に碑文が解かれ、ヤスは黄金を一族に継承する。しかし一族が黄金をめぐり殺し合いを始める。一族が次々に殺されていき、ヤスは生きていた戦人と逃亡。その後、ボートから海に飛び込み自殺。
・戦人はヤスを助けようとしたものの、溺れて記憶と人格を失ってしまう。
・戦人は八城幾子に助けられ、八城十八として生きる。
・十八は戦人の記憶を思い出し、幾子の家で「ワインボトルのノート片」を読むことで、あの日のヤスの真相に至ってしまう。
・自分の罪に激しい後悔を覚えた事と、十八として戦人の記憶自体が自分の事と思えない症状により精神不安定になる。
・幾子と共に十八は偽書を書き始める。
・幾子が絵羽の日記を手に入れ、パーティーでそれを公表すると言いつつ、それをやめてしまう。その影響で六軒島の事件は世間から風化していく。
・十八の偽書をネットで読んでいた縁寿が、一族や家族の事を自分の中で整理し、作家になる。
・作家になった縁寿と十八の再会。
・縁寿が再稼働した福音の家に十八は招待され、戦人の記憶に決着をつける。
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いよいよEP8を迎える事になったが、EP8は縁寿のために開かれたゲームであり、戦人は縁寿に未来を生きるための力を伝えようとしていた。一方の縁寿は六軒島で起こった事件の真実を求めていた。六軒島の事件の真実はEP7で語られたあの内容そのものであり、EP7の時もそれは説明した。EP8にそれを裏付ける伏線がいくつか出ているので抜粋する。
「一なる真実の書は確かにこの島で何があったのかを縁寿に教えるだろう。しかし、それを知って何の意味がある?! 12年前の悲しみが増すばかりじゃねえか! いったい縁寿はさらに何年かければ1人の女の子としての幸せを享受できるってんだよ! いったい何年をかければその傷口は癒されるんだよ!」
そして、縁寿が実際に「一なる真実の書」を見た後に絵羽に対する心象を全く正反対に変えていて「絵羽は私の一番の味方だった」と語っている。六軒島の真実はEP7の内容の通りであり、絵羽は縁寿に両親が殺人犯だった事を隠していたのだと読み取れる。
この戦人と縁寿の対立の構造として本編中に分かりやすい説明部分があるので、そこを抜粋する。
「かつてのベアトのゲームが戦人に魔女の存在を信じさせようとする事が目的だったように、戦人のゲームは縁寿に真実より大切な何かを伝える事を目的とする。ゲームはいつだってその結果を強制しない。ベアトだって戦人が自ら認めない限り、永遠に勝つ事は出来ないゲームだった。戦人のゲームも同じ。縁寿が自ら認めない限り戦人の勝つ事はできないゲームなのだ。だから、戦人はかつてのベアトのようにゲームを進める。信じるかどうか。納得するかどうかは全て対戦相手が決める。そのために戦人は自分の幻想で縁寿を包み込もうとしている。」
かつてのベアトのゲームは彼女の目的が別にあったとはいえ、魔女を認めさせる事も大事だった。それは事件をEP7のような事件ではなく「魔女の犯行」と信じさせる事で、戦人が傷つかないようにしていたからだ。でもそれは戦人が自分で魔女を認めないと成立しない。今回の縁寿のゲームも同じ事であり、戦人は縁寿が「六軒島の黄金をめぐる殺し合い」という真相で傷ついてほしくなかった。幼少期の彼女がもう覚えてはいないだろう右代宮家のあたたかな空気を感じてもらう事と、真里亞の教えた白い魔法で、縁寿が幸せを自分で見つけてくれるような未来を送ってほしいと願っていた。それがEP8のゲーム盤の意味合いだ。
・なぜ真実を知る事が駄目なのか
EP8の真相を求める縁寿は実際には98年の世界で得られもしない真実を求め、絵羽を犯人と決め付け、絵羽に復讐するためだけに生きている。彼女の中で「絵羽が犯人」と真相は決まっていて、それに都合のよい真実を求めてるだけなのだ。本編中から天草の語る重要なセリフを抜粋する。
「真実を暴く事に疲れ果て、お嬢はやがて右代宮絵羽を憎むだけの人生に成り果てていく」
「お嬢の旅は最初真実を知る旅でした。それが段々復讐の旅になっている。」
結局縁寿が真実を知ったところで、彼女にとってその真実は受け入れられる物ではなく、ただ彼女を傷つけるだけの物でしかないのだ。縁寿が一なる真実の書を読み、自殺する描写のあと戦人達と合流するが、ここで戦人が「真実なんてたいしたもんじゃなかっただろ」と言っている。これは、縁寿にとって受け入れられる都合のいい真実ではなく、絵羽が犯人ではないと知り、自分の未来のために何の価値もない真実だったという意味だ。「真相がたいしたもんじゃない」という意味ではなく、「縁寿にとって価値のある真実ではなかった」という事だ。当然だろう。両親が殺人犯だったなんて真相を縁寿が受け入れる訳が無い。それがたとえ真実だったとしても。
・譲治と朱志香の出題
クイズ大会で譲治と朱志香が伝えようとしている事は非常に重要だ。縁寿は今までの人生の中で様々な情報を自分で選び取って生きてきているはずだ。その中には縁寿を幸せにしてくれる情報、縁寿を不幸にするだけの情報、両方あるだろう。今までの縁寿は世間の六軒島の事件の真相を巡る熱狂の中から、絵羽の陰謀説、留弗夫と霧江犯人説など、縁寿を不幸にする情報ばかり選んで育ってきてしまった。でもそれは間違いなのだ。譲治と朱志香が伝えたかった事。六軒島の事件の真相なんて縁寿のいる世界では明らかにはならないのだ。猫箱に真相が閉じ込められた以上、未来の縁寿にはその真相を知る手段はない。だから、縁寿は自分を幸せにしてくれる情報だけを選び取って、それを大切にして未来を生きる事が大事なのだ。譲治と朱志香は縁寿が幸せな未来を送る事が出来るように、それを伝えたかったのだろう。そして、この偽書そのものを読んでいる「現実の縁寿」は、十八のこのメッセージをきっと受け取ってくれたはずだ。
・最後の選択
最後に縁寿は魔法か手品のどちらかの選択を迫られる。縁寿が見たベアトの行為は明らかに手品にしか見えなかっただろう。縁寿は兄が紡いでくれたこの最後のゲーム盤で何を受け取ったのか。確かに縁寿は一なる真実の書を読み、真相を知ってしまったかもしれない。しかし、縁寿は真実を知ってもそれを拒否する事ができるのだ。あんなのは真実じゃないと。どんな真実も結局は本人がそれを受け入れないと真実にはならない。そして、縁寿は兄から右代宮一族の温かな気持ちや思い出を受け取った。自分の未来のために本当に大切なのは何なのか。手品という名の現実なのか。それとも、縁寿を幸せにしてくれる可能性を持った魔法なのか。真実を知る事は現実を突きつけられる事と同じだ。六軒島の真実は黄金を巡る殺し合いであり、縁寿を不幸にするだけの辛い真実だった。でも、それを縁寿が真実だと認める必要なんかないのだ。真実は縁寿が自分で決める。自分が未来を生きていくために、本当に大切な事は何なのか。それが本当に理解できたのなら、縁寿が選ぶべき選択はもう明らかだろう。
・一なる真実の書
この本は幻想世界と現実世界の両方に出てくるが、EP8の作家になった縁寿がこの時の日記披露パーティーの様子を回想しているため、これは現実でも実際に存在してて、幾子が突然公開中止をしたエピソードも本当の出来事だろう。絵羽はEP8で語られた通り、真相を日記に書きとめており、右代宮蔵書の流出と共に幾子の元へ渡ったのかもしれない。
・ベアトリーチェ
EP8で登場するベアトリーチェはEP6の時のような雛ベアトのような口調を一切出さない。これはEP5で死んだベアトがまるで生き返ったように見える。この部分は現実世界で偽書を書いている八城十八の気持ちが大きく反映されてる物と思われる。EP5でベアトが死亡し、EP6で新たなベアトが復活し結婚するというのは、十八が真相に至るのがあまりに遅かった後悔と、ヤスに自分の気持ちを伝えるためのエピソードとして書いた物であり、EP5とEP6は彼の心のけじめなのだ。なのでEP8の時点で十八の中では六軒島に関する問題は全て整理できていて、問題は縁寿だけに絞られている。そういう意味合いなので、EP8のベアトはEP1~5に登場していたかつてのベアトと同一と言っても何の差しさわりもないと思われる。幻想世界ではEP5で死亡し「あのベアトは二度と生き返らない」と宣言されているが、現実世界部分の事を考えるとこれは矛盾しないように思える。もちろんあれが雛ベアトだと解釈するのも間違いではない。要するに過去のベアトと雛ベアトの違いに意味なんてないのだ。
【ベルンの赤字】
「ベアトリーチェは、1986年10月に、死亡した。よって、彼女が生み出した黄金郷は、完全に滅び去った。黄金郷に生かされていた、お前の親族たちも全員、滅び去った。お前の父も、母も、そしてもちろん戦人も、二度とお前のところに戻り、お前の名を呼ぶことはない。」
ベアトリーチェはEP8の最後に語られたように、間違いなく死んだ。ボートから飛び降り自殺したのは真実の描写だ。ここで「なぜベアトリーチェは自殺したのか」を考察しよう。
EP7のヤスの動機、計画考察を思い出してほしいのだが、実際の六軒島でEP7のような一族による殺し合いが発生した結果、とんでもないイレギュラーが発生してしまったのだ。碑文が解かれる事によって「紗音人格と譲治の恋が成立」というのは前に説明した通りだが、一族の殺し合いに巻き込まれ、紗音の思い人である譲治が殺されてしまったのだ。つまり、碑文が解かれたにも関わらず、紗音と譲治が結ばれる事が不可能になってしまった。その後戦人とベアトは潜水艦基地の方へ逃げたようだが、戦人と結ばれるためにはルーレットの結果が出ないといけない。つまり、戦人が事件を解決し、真相に至るというルーレットの目が出ないといけないのだ。EP7の通りヤスは2つの人格の恋に決着をつけるために自身のルールを絶対に守ると言っている。なので、事件の真相に至っていない戦人とベアトが結ばれるというのは、紗音人格に対する重大な裏切り行為なのだ。「譲治と結ばれる」「戦人と結ばれる」これが不可能になり、「爆弾によって全員皆殺し」もあの時の状況では出来るわけがない。
つまりあの時の彼女は想定していた全ての選択肢が消えてしまった状態なのだ。最悪の目と想定していた爆弾による心中すらも不可能だったのだ。あの時彼女がどれだけ絶望を感じただろう。ルーレットですら運命を決める事が出来ず、初めて出来た選択が絶望による「自殺」だったのだ……
戦人の死亡宣言はこのベアトの自殺時に、助けるために海に飛び込んだものの助けられず、記憶と人格を失ってしまった事を指しているものと思われる。EP8で黄金郷が消滅しているが、もちろん「爆弾によって皆殺し」が成立しなかったために、黄金郷が成立しなかった事の比喩だろう。黄金郷の思想である「死んであの世で思い人と結ばれる」というのは一つ欠点がある。それは思い人が生きている場合成立しないという事だ。それはそうだろう。ベアトが死んで黄金郷に行ったところで、戦人が現実世界で生きてるのでは成立しない。この赤字はその部分も総合的に含めた赤字だろう。
・入水自殺とベアトリーチェの幸せ
ヤスの自殺部分については自身のルールを順守した上で、彼女が自殺という最終的な選択を行ったし、絶望ももちろんあるだろう。しかし、戦人が「島を一緒に出よう」と言ってくれた事によってベアト人格の思いの一部は少なからず叶えられたはずだ。戦人からすれば目の前でヤスが自殺を行った事は深い衝撃と悲しみや後悔を生んだに違いないが、ヤスのベアト人格は満足して死んでいった一面もあると思う。一緒に島を出ようと戦人が言ってくれた事でヤスは一つのゴールにたどり着いたに違いない。ただ、それを見ていた戦人が理解できたのかは分からない。
・フェザリーヌとラムダの戦い
あのフェザリーヌが物語を「ラムダが死ぬ」というように書き換えて戦ってる描写は、このうみねこの世界が偽書の世界であるという真相の比喩だと思われる。物語を紡いでいる幾子と十八の事を暗示する部分だ。
・なぜ戦人達とエリカが戦っているのか
この部分は現実世界の部分の反映だろう。真相に至った十八は縁寿を守るため、そしてヤスへの思いも守り、六軒島の事件の真相を知られたくないと思うようになった。しかし、世間では六軒島の事件は大ブームになっていて、偽書もどんどんネットで生み出され、様々な悪意のある物語が生み出されていった。この十八と現実世界部分の対立がEP8の幻想世界のバトルとして反映されている。あれはプレイヤーに対する批判ではないので、そこを勘違いしないようにしよう。
・階層構造の仕組みによる読者への誤解
うみねこの世界は大きく分ければ2つの世界によって構成されている。ヤスと十八の描く偽書世界と、その読み物としての偽書が実際に存在している現実世界だ。この偽書世界というのは本来、うみねこの世界の現実世界の人々に向けて発信されているメッセージであり、EP8の読者への攻撃性も、当然うみねこの世界の現実世界の人々へ「六軒島の事件を猫箱へ閉ざす」という目的のために発信されている。ここでポイントなのは、本来1ページ目へ
うみねこの中の現実世界の人々へ向けられた物語を、私達プレイヤーが一階層飛び越えて直接読んでしまっているため、作中のメッセージ性を「私達プレイヤーに向けられたメッセージ」と勘違いする例が顕著に出てしまった。それがEP8発売後に「自分が批判された」と誤解してしまったユーザーによる作品批判へと繋がってしまったのだ。それは誤解なのだという事をここで再度言っておきたい。
・手品ED
縁寿の登場する98年世界でEP4、EP6、EP8の手品EDの部分は全て偽書の世界であり、現実の98年の描写ではない。幻想世界のクイズ大会の景品を手品EDで持ってる部分なんか分かりやすいだろう。実際の縁寿のいる現実の98年世界は作家になった縁寿が描かれている部分のみだ。
・縁寿はどうやって作家になったのか
以上のような98年世界の考察を踏まえると、「どうやって作家になった縁寿は、一族や家族が死んだ過去を乗り越えたのか?」という疑問が残る。それに対する伏線部分が十八と縁寿の再会部分にあるので抜粋する。
「しかし、私は兄からのメッセージをちゃんと受け取れていたはずだ。それは伊藤幾九郎の事。私は真実に至ったと自称する偽書作家、伊藤幾九郎の正体が八城十八だと気付いた~」
つまり、縁寿は98年世界で八城十八がネットに流していた偽書をずっと読んでいたのだ。EP8は特に縁寿に向けられた物語であり、EP4は真里亞の魔法を理解するには大事なエピソードだっただろう。彼女は偽書を読む事で、十八のメッセージを受け止めたのだ。
・なぜうみねこは真相が本編中で明かされないのか
最後の結びの一文からも分かるように、うみねこのEP1~8は全て98年世界に存在している。人の目に触れている物語のため、これに真相を書いてしまうと、うみねこの世界の98年世界の人々も同時に真相を知ってしまうという事になり、縁寿が幸せに生きる事ができる世界が無くなってしまう。そのため、このような構成になったのだと思われる。さらに言うならば、この偽書の作者として名乗り出たのが幾子であるため、うみねこの現実世界の人々にとってはただの創作物でしかない。十八という事件関係者が実際は偽書作成に関わっていると知らない限り、偽書内に何を描こうがそれは創作としか受け止められないだろう。たとえ、真実が描写されたとしても。
・八城十八が偽書を書き始めた理由
まず一つに作家になった縁寿と再会したシーンでの会話から分かるように、十八は記憶障害を持っている。それがキッカケで自殺未遂をした経験もあり、戦人の記憶との葛藤はとても大変な物だったのだろう。戦人の記憶に整理を付けるためという理由も少なからずあるだろう。
二つ目に、EP5でも触れたヤスの真相に至るのが遅かったという部分もある。メッセージボトルを読んで真相に至った十八は激しく後悔しただろう。戦人の記憶が自分の物と思えない記憶障害の部分と、戦人のこの真相に至るのが遅かったという後悔の部分との狭間で、十八の精神状態は極限まで混乱してたと推測できる。戦人のこの後悔の気持ちを十八は物語として決着をつけてあげなくてはいけないと思ったはずだ。EP6の物語がその決着のつけかたの答えであり、ヤスへの気持ちを綴った物語でもある。
三つ目に縁寿の事だ。十八は戦人の記憶が自分を全て塗り替えて、別人にしてしまう事を恐れていたと告白している。縁寿に会うという事はそれを加速させてしまう危険性があり、縁寿に会う事は精神的抵抗がかなり大きかっただろう。しかし、六軒島の事件以来縁寿が一人で寂しく孤独に暮らしている事実に目を背け続けるのも苦しい。そこで十八はせめて偽書を通して縁寿にメッセージを送ろうと思ったのだろう。EP4やEP8の物語は現実の縁寿にかなり大きな影響を与えたはずだ。それはもう人生観が変わるほどに。
最後に魔女幻想を世間に広めるためという理由だ。EP6の「赤字」という項目で語ったが、幾子は偽書を作成する時に真実だと保証したものを赤字で記している。物語で赤字が登場するのはメタ世界なので、98年の世界でネットで公表されている偽書には私達が見たのと同じメタ世界の攻防が描かれている。つまり、98年世界の人々にあの魔女と戦人の攻防を見せる事がひとつの目的でもある訳だ。記憶を失った十八がメッセージボトルを読んで真相に至った時に、十八は実際の六軒島で起こった出来事はもちろん、ヤスがやろうとしていた事や動機部分まで全て知ってしまった。真相に至った十八はヤスのあまりに悲しい結末と、一族による黄金を巡る殺し合いという真相を世間に知られたくないと思うようになった。これは縁寿が希望を持って生きていける世界を守るためにも必要だ。そうした理由から、十八は「六軒島の事件は魔女による犯行だった」という黄金の真実で98年世界の人々を真相から遠ざけようとしたのだろう。本編中で語られているように六軒島の事件は最初絵羽の遺産を巡る陰謀説が主流で、魔女がどうのこうのという説は後から急に広がり始めた説だ。思惑通り世間の六軒島の事件への印象は真相とは程遠い「魔女による犯行」という印象で塗りつぶされていった。この黄金の真実で十八は六軒島の悲しい事件全てを覆い隠したのだ。縁寿のため、死んだ一族のため、そしてヤスのために。
・福音の家の魔法EDの意味
あのEDの意味はまず一つはベアトの語る黄金郷の復活という部分にある。前にも語った通り、黄金郷は思い人が死んでいないと成立しない。縁寿が「十八先生も兄の記憶の重責から解放されてもいいと思います」と言ってるように、あの時やっと十八の中から戦人の人格が完全に死んだのだ。死んで戦人は黄金郷にやっとたどりついた。ベアトも自分の思い人がやっと来てくれた事を喜んでいるのが伝わってくる。
もうひとつの意味は、記憶を無くした十八がメッセージボトルを読む事でヤスの気持ちを知り、真相に至る事があまりに遅かった自分の事を後悔し、そのけじめのためにずっと紡いできた物語を、やっとあの瞬間ヤスに伝えられた事を意味している。最後の結びの一文「この物語を最愛の魔女ベアトリーチェに捧ぐ」からもその気持ちが伝わってくるだろう。
・縁寿の反魂の魔法
十八と幾子が福音の家を訪れた時、そこには六軒島のお屋敷のホールが再現されていた。施設の子供がハロウィンパーティーを催しており、とても幸せな空気が充満していた。十八の偽書を読み、自分にとっての真実を大切にしようと思ったであろう縁寿は、六軒島の真実をEP7お茶会のようなものではなく、EP8の前半のような幸せな真相の解釈だったと信じ、あのホールを再現したのだろう。縁寿にとっての肖像画のベアトリーチェは白い魔法を教えてくれる魔女として解釈されてるのかもしれない。その縁寿の想いが詰まったあのホールを十八が訪れた時、十八は昔の温かな右代宮家の雰囲気をきっと思い出しただろう。十八は縁寿に魔法という考え方を偽書を通して教え、縁寿の幸せを願った。それは「魔法を他人にかける」という事だが、本当の意味で何よりも難しいのは、魔法を自分自身にかける事だ。十八にとって六軒島の真実は確定したただの真実であり、違う解釈の余地が存在しない。それに加え、ヤスとの約束の一件もあり、十八の精神状態は縁寿に会った時も不安定のままだった。兄から魔法をかけてもらった縁寿は、十八に会った後、その兄の葛藤や苦悩を察したのだろう。縁寿の愛がつまった福音の家のホールは、昔の温かな右代宮家の雰囲気が充満していた。これこそが、縁寿が兄にかけてあげる反魂の魔法なのだ。
・魔法EDの黄金郷に18歳の縁寿がいる理由
一見するとスルーしがちなこの部分は実はかなり重要だ。なぜ死後の世界である黄金郷に18歳の縁寿がいるのか。それは、この縁寿が偽書の物語のあの縁寿だからである。縁寿はEP4のエンドロールで1998年に死亡と書かれている。現実の縁寿はもちろん作家になった縁寿だけなのだが、偽書の中で家族の帰りを望んでいたあの縁寿にも黄金郷で家族と再会というハッピーエンドが用意されていた訳だ。実に感動的なシーンだ。
・黄金郷の扉
EP8で黄金郷の扉は、外から2人で閉じないといけないという情報が出た。魔法EDの最後の黄金郷は扉が閉まってエンドロールに入るが、あれは恐らく真相を猫箱に閉じた十八と幾子が、黄金郷の扉を外から閉じてくれたのだろう。
・ベルンカステルとラムダデルタ
ここまでのうみねこの考察で偽書世界と現実世界の関係性を重点に考えてきたが、最後に偽書世界的な魔法解釈の話をしようと思う。ベルンカステルは幾子の猫がモデルなんだろうなとEP8の描写から分かるが、ラムダデルタは一体何がモデルになっているのか。推測だが、ヤスが事件を起こそうとした時の「絶対に成功させる」という絶対の意思がモデルなんじゃないだろうか。ラムダはヤスの人間の頃のみすぼらしい姿を知っていたし、彼女の後見人でもあり、なおかつ、ゲームマスターをEP5で務めるほどの最初からあらゆる真相に至っている魔女でもある。ヤスの絶対の意思がモデルとなった魔女なのだとすると、なぜ彼女がヤスの事にあんなに詳しいのかや、真相に至ってる理由、ゲームマスターを務められた理由も納得できる。
絶対の意思を持ったヤスにラムダデルタは、ルーレットの目のひとつを叶えてあげる事にした。しかし、それは苦難の道のりだったのは言うまでもない。ラムダデルタが安易に幸せをほいほいと与えてくれるような魔女ではないのは本編からも分かる。事件は想定していなかったイレギュラーによって失敗し、ヤスは自殺をする。それを見ていた戦人の深い後悔と謝罪の物語であるEP2~8を経て、やっとEP8の魔法EDにて全員が黄金郷でハッピーエンドを迎える。本来ヤスが現実世界で叶えたかったのは紗音かベアトのどちらかの人格の幸せであっただろう。しかし、ラムダデルタは苦難の道のりの末に全人格の幸せを叶えてあげたのだ。そんな願いの叶え方をするのが実にラムダデルタらしい(笑)そしてベルンカステルの「奇跡」もうみねこの物語の中では重要な奇跡を叶えてくれている。うみねこの現実世界の物語で明らかに奇跡としか言いようの無い部分が一ヶ所ある。それはワインボトルのノート片が十八まで届き、十八が真相に至った事だ。EP7の理御の話の部分で、ベルンカステルは奇跡的な確率で夏妃に拒絶されずに育った理御が、結局は86年の親族会議の日に殺される運命であると告げている。EP7から抜粋する次の部分を見てほしい。
「257万8917分の257万8916の確率で。あなたはクレルとしての世界に生き、逃れ得ぬ運命に翻弄され、気の毒な最期を遂げる。そして、257万8917分の1の確率で右代宮理御として生き。今夜、霧江に殺されるの。…………つまりあなたの、いいえ、あなたたちの運命は、257万8917分の257万8917の確率で、…………つまり如何なる奇跡も許されない絶対の運命で、逃れ得ぬ袋小路に、運命の牢獄に囚われてるということなのよ!」
「決して出られぬ牢獄の鉄格子の先に見えるわずかな空に、ベアトリーチェという魔女は、幸せになれたかもしれない世界を夢想した…。しかし、その鉄格子の先の空は、…………またしても、牢獄の中だったのだ……。」
どんなに探しても理御が助かるカケラは存在しなかったのだろう。それを考えるとヤスが事件を起こした時に、一族が殺し合いをしないカケラというのも存在しなかったのではないだろうか。ベルンカステルは奇跡を司る魔女だ。1%でも可能性があればそれを奇跡に昇華できる。しかし、ヤスの計画にそのカケラはなかったのだろう。だから、ベルンカステルはメッセージボトルが誰かに拾われ、最終的に十八が読み真相に至るという奇跡を叶えた。ベルンカステルが常に人間側に立ち魔女幻想を打ち破ろうとしていたのは、このメッセージボトルが十八まで届くという奇跡を叶えたからではないだろうか。メッセージボトルはヤスが戦人に真相に至ってほしいと願って海に投じた物だ。だから、ベルンカステルはその思いをないがしろにする事は出来なかったのだろう。
この2人の魔女の「絶対」と「奇跡」によって、最終的にEP8の魔法2ページ目へ
EDのような結末が実現した。それがうみねこのなく頃にという作品の魔法解釈としての物語なのではないだろうか。そんな視点であの魔法EDを見るのも面白い。
【うみねこのタイムライン】
・金蔵が戦時中六軒島でイタリア人のベアトリーチェと出会う。黄金をめぐる殺し合いが発生し金蔵とベアトリーチェだけ生き残る。
・イタリア人のベアトリーチェを愛人として迎え入れ、金蔵とベアトリーチェとの間に子供が出来る。ベアトリーチェは子供を産んだ際に死亡。
・金蔵が六軒島に屋敷の本館とは別に九羽鳥庵を建て、そこでベアトリーチェとの子供を育てる。
・金蔵は子供である九羽鳥庵ベアトを死んだイタリア人のベアトの生まれ変わりだと信じ、子供を作ってしまう。
・その子供を福音の家からの子供という名目で夏妃に預ける。しかし、夏妃は事故か故意か使用人と一緒に崖から突き落としてしまう。使用人は死亡。子供は南條先生の手当てのおかげで一命を取り留める。
・九羽鳥庵ベアトの元に楼座が迷い込み、彼女を外に連れ出した結果、海岸で崖から落ちて死亡させてしまう。
・九羽鳥庵ベアトの娘ヤスは、幼少期を福音の家で過ごす。
・源次によって右代宮家の使用人として連れてこられたヤスは、使用人生活を続けつつ学校にも行くようになる。
・ヤスが親族会議の度に会うイトコ達と仲が良くなり、戦人に恋をする。
・その後戦人との約束の件で心を痛め、恋の芽を自分の別の人格に預け、新しい恋を探す事に。
・ヤスが碑文を解き、黄金を発見。黄金と爆薬、そしてベアトリーチェの称号を手にする。
・ヤスは譲治と新しい恋をし、順調に交際を進める。
・86年に戦人が帰って来る事によって2つの人格が譲治と戦人に別々に恋をしてる状態になる。
・ヤスは事件を通して自身の恋に決着をつけるべく事件を起こす。
・事件前日に碑文が解かれ、ヤスは黄金を一族に継承する。しかし一族が黄金をめぐり殺し合いを始める。一族が次々に殺されていき、ヤスは生きていた戦人と逃亡。その後、ボートから海に飛び込み自殺。
・戦人はヤスを助けようとしたものの、溺れて記憶と人格を失ってしまう。
・戦人は八城幾子に助けられ、八城十八として生きる。
・十八は戦人の記憶を思い出し、幾子の家で「ワインボトルのノート片」を読むことで、あの日のヤスの真相に至ってしまう。
・自分の罪に激しい後悔を覚えた事と、十八として戦人の記憶自体が自分の事と思えない症状により精神不安定になる。
・幾子と共に十八は偽書を書き始める。
・幾子が絵羽の日記を手に入れ、パーティーでそれを公表すると言いつつ、それをやめてしまう。その影響で六軒島の事件は世間から風化していく。
・十八の偽書をネットで読んでいた縁寿が、一族や家族の事を自分の中で整理し、作家になる。
・作家になった縁寿と十八の再会。
・縁寿が再稼働した福音の家に十八は招待され、戦人の記憶に決着をつける。
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