剧本选段
神はあるかないかではない。信じるか信じないかだ。僕は信じない。信じないと云ふことが一つの信仰だ。僕は人類が神を信ずる為めに向上したとは思はない。神を信ずる為めに幸福であり得たとも思はない。最も高い文化、最も楽しい生活は、人類が、自己の力に最も大きな期待を持つた時に生れるのだ。死に瀕して神を祈る心は静かには違ひないが、死に面して己を讃美する華やかな瞬間に及ばない。生への執着は時間的観念を超越してゐる。生命の最後の幕が、歓喜と陶酔の中に閉ぢられるならば、死は一つの休息である。否、寧ろ歓喜と陶酔との連続である、延長である。吾人は、残された一日を如何に過すべきかを考へなければならない。楽しかつたことは繰り返せ。求めて得なかつたものを求めよ、好きな酒は飲め、歌ひたきものは歌へ、踊りたきものは踊れ。——麺麭屋文六の思案 第二場
女 男と女とがお友達になるつていふのには、いくらかさういふことに興味がもてなくつちやね。
男 さうか知ら……。僕はさうは思ひませんね。友達は友達、恋人は恋人、夫婦は夫婦、かうちやんと区別をつけてほしいな。
女 つけなくつたつていゝぢやないの。それや、区別をつけたい人はつけたつていゝわ。例へば、あなたとあたしとは、友達以上のものになりたくないと思へば、ならずにすむわけだわ。
男 もちろん、僕もさう心掛けてゐるのです。
女 心掛なくつたつて大丈夫よ。あなた見たいな方は、恋人として熱がないし、夫としては落ち着きが足らず……。
男 友人としてだけ尊敬ができるわけですね。あなたは流石に眼が高い。だからこそ、僕は安心して、あなたとだけは、かうして、向ひ合つてゐられるのです。恋愛なんていふものは、一方だけがしつかりしてゝもなんにもならない。そこへ行くと、大丈夫なのはあなただけではない。僕の方も大丈夫です。なぜなら、あなた見たいな女は、恋人としては気紛れで……
女 妻としては我儘で……。ね、さうでせう。
男 (笑ひながら)それに、友達としてのあなたは、実に申し分がない。淡泊で、敏感で、思ひやりがあるところ、少くとも、僕が今までつき合つた男、女を通じて、あなたほどの友人は一人もなかつた。このことだけは、僕も、お世辞でなく、あなたの前で云ひきることができます。
——————————————————————
男 (無器用に笑ふ)僕は冒険は嫌ひだ。
女 さうでもないくせに……。あたしの見るところでは、あなたの生活が、もう一つの冒険だと思ふわ。
男 あなたの生活はどうです。
女 だからあたしは、冒険家を以つて任じてるんだわ。さうね。あなたは、用心をしながら冒険をするつていふところがあるわね。
男 …………。
女 独身で婆やを置いてらつしやるのなんかもそれよ。
男 (笑ふ)なるほど、さうか、独身は冒険なんですね。
女 あなたのお年ではね。
男 結婚はなほ冒険でせう。
女 一度で済むわ、その代り……。
男 一度で済まなければ……。
女 冒険でなくなるばかりよ。
男 あつさりしてら。僕は兎に角、冒険はきらひです。独身が冒険だと云はれゝばしかたがないが、少くとも独身を利用することは慎しんでゐるのです。あなたのやうな自由な考へ方も面白いが、僕もこれで、なかなかしつかりした考へをもつてゐるつもりなんです。心を乱したり、生活を煩はしくしたりするやうな一切の誘惑は、頭から斥けよう、かう決心をしてゐるのです。あなたとかうしておつきあひをするやうになつたのだつて、僕の方から求めたわけぢやないんですからね。
——————————————————
男 僕は非常にがつかりしたんです。さういふ夢を見てゐる時のあなたは、やつぱり平凡な女だといふことがわかつたからです。なるほど、あなたのやうな若い美しい女の口から、さういふ歌を唄つて聞かされるのは、それだけとして、悪い気持はしない。それどころか、僕は、年甲斐もなく、ほろりとさへしました。しかし、子守歌はやつぱり子守歌ですね。僕はもう、そんなことで、すやすやと寝つきはしませんよ。
女 人間は誰でも、男でも女でも、真剣になると平凡よ。
男 …………。
女 あなただつて、今日は、いつものあなたぢやなくつてよ。さうお思ひにならない? でも、うれしいの。あなたを少しばかりしんみりさせたから……。——恋愛恐怖病 第一場
妻 さうだわ、お金が入つたら、真先にどつか海岸へ行きませうよ。あたし、ホテル生活がして見たいわ。
夫 お前は勝手にさうするさ。独りでさびしかつたら、適当な相手を連れて行くんだね。
妻 まあ、それで貴方あなたは貴方で、適当な相手を引張り込まうて言ふの。
夫 まあその辺は、まかせといてもらはう。
妻 いゝわね、だけど、お金が入るつてことは、何も彼も新らしくなるつて気がするわ。あなたさういふ気持なさらない?———世帯休業
女 男と女とがお友達になるつていふのには、いくらかさういふことに興味がもてなくつちやね。
男 さうか知ら……。僕はさうは思ひませんね。友達は友達、恋人は恋人、夫婦は夫婦、かうちやんと区別をつけてほしいな。
女 つけなくつたつていゝぢやないの。それや、区別をつけたい人はつけたつていゝわ。例へば、あなたとあたしとは、友達以上のものになりたくないと思へば、ならずにすむわけだわ。
男 もちろん、僕もさう心掛けてゐるのです。
女 心掛なくつたつて大丈夫よ。あなた見たいな方は、恋人として熱がないし、夫としては落ち着きが足らず……。
男 友人としてだけ尊敬ができるわけですね。あなたは流石に眼が高い。だからこそ、僕は安心して、あなたとだけは、かうして、向ひ合つてゐられるのです。恋愛なんていふものは、一方だけがしつかりしてゝもなんにもならない。そこへ行くと、大丈夫なのはあなただけではない。僕の方も大丈夫です。なぜなら、あなた見たいな女は、恋人としては気紛れで……
女 妻としては我儘で……。ね、さうでせう。
男 (笑ひながら)それに、友達としてのあなたは、実に申し分がない。淡泊で、敏感で、思ひやりがあるところ、少くとも、僕が今までつき合つた男、女を通じて、あなたほどの友人は一人もなかつた。このことだけは、僕も、お世辞でなく、あなたの前で云ひきることができます。
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男 (無器用に笑ふ)僕は冒険は嫌ひだ。
女 さうでもないくせに……。あたしの見るところでは、あなたの生活が、もう一つの冒険だと思ふわ。
男 あなたの生活はどうです。
女 だからあたしは、冒険家を以つて任じてるんだわ。さうね。あなたは、用心をしながら冒険をするつていふところがあるわね。
男 …………。
女 独身で婆やを置いてらつしやるのなんかもそれよ。
男 (笑ふ)なるほど、さうか、独身は冒険なんですね。
女 あなたのお年ではね。
男 結婚はなほ冒険でせう。
女 一度で済むわ、その代り……。
男 一度で済まなければ……。
女 冒険でなくなるばかりよ。
男 あつさりしてら。僕は兎に角、冒険はきらひです。独身が冒険だと云はれゝばしかたがないが、少くとも独身を利用することは慎しんでゐるのです。あなたのやうな自由な考へ方も面白いが、僕もこれで、なかなかしつかりした考へをもつてゐるつもりなんです。心を乱したり、生活を煩はしくしたりするやうな一切の誘惑は、頭から斥けよう、かう決心をしてゐるのです。あなたとかうしておつきあひをするやうになつたのだつて、僕の方から求めたわけぢやないんですからね。
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男 僕は非常にがつかりしたんです。さういふ夢を見てゐる時のあなたは、やつぱり平凡な女だといふことがわかつたからです。なるほど、あなたのやうな若い美しい女の口から、さういふ歌を唄つて聞かされるのは、それだけとして、悪い気持はしない。それどころか、僕は、年甲斐もなく、ほろりとさへしました。しかし、子守歌はやつぱり子守歌ですね。僕はもう、そんなことで、すやすやと寝つきはしませんよ。
女 人間は誰でも、男でも女でも、真剣になると平凡よ。
男 …………。
女 あなただつて、今日は、いつものあなたぢやなくつてよ。さうお思ひにならない? でも、うれしいの。あなたを少しばかりしんみりさせたから……。——恋愛恐怖病 第一場
妻 さうだわ、お金が入つたら、真先にどつか海岸へ行きませうよ。あたし、ホテル生活がして見たいわ。
夫 お前は勝手にさうするさ。独りでさびしかつたら、適当な相手を連れて行くんだね。
妻 まあ、それで貴方あなたは貴方で、適当な相手を引張り込まうて言ふの。
夫 まあその辺は、まかせといてもらはう。
妻 いゝわね、だけど、お金が入るつてことは、何も彼も新らしくなるつて気がするわ。あなたさういふ気持なさらない?———世帯休業
有关键情节透露